今回、このブログでは鳥取大学地域学部の先生方にご協力いただいて、先生方の「推し本」を紹介していただくことにしました。第一回は司馬遼太郎の『竜馬がゆく』です。坂本竜馬を題材にした小説はたくさんありますが、物語を綴る作家によって竜馬像というものは変わってくるように思います。物語そのものはもちろん、「司馬遼太郎の坂本竜馬」を楽しむことも出来る作品ではないでしょうか。
-紹介文-
僕が初めて読んだ大人の本がこちら。那須正幹のズッコケシリーズ、ヒュー・ロフティングのドリトル先生、宗田理の僕らシリーズと、児童文学・青年文学を順当に読み進めて、大人の本に挑戦してみたいお年頃だった中学時代。旅先の古本屋で目に入ったのがボロボロなこの本だった。吸い寄せられるように手に取り、初めての大人の本に挑戦してみようという気持ちに。この本との出会いが一生ものになるから人生わからない。
内容を少し。
若き日の坂本龍馬が剣術修行に出て、時代の荒波に巻き込まれて、幕末維新を見届けた上で暗殺されるまでを描く超長編時代物語。幕末において、土佐藩の下級武士は他藩の藩士とは異なる背景を持っていた。他藩藩士は自分の藩の中で活躍して、藩を動かし時代を動かそうとした。一方で、土佐の下級藩士は元々が長宗我部家臣の生き残りであったことから関ヶ原の勝者である山内の殿様とその家臣の上級武士からは虐げられる存在。もちろん藩政への参加資格はなく、その多くは藩を飛び出て自藩を頼らず志士となった。
竜馬も同様であり、生まれ持ってのバックとなる組織を持たず、藩はどちらかというと敵、幕府も敵、持っているのは剣の腕のみ、という状況。
こんななんの政治的力も持たない一介の浪人志士が、日本初の海軍のような組織を作り、薩長幕府を含めた各藩要人を動かしながら、薩長同盟を成し遂げ、幕府に大政奉還をさせてしまう。
司馬遼太郎はこの奇跡の理由を、坂本竜馬のキャラクターに求めた。
作中の竜馬はとても魅力的な好人物で、前向きで明るくてとても型破りながら人の心の中に入り込むのが上手い。薩の西郷隆盛、幕府の勝海舟、越前の松平の殿様などなど、大物達の心を次から次へとたらしこみ、気づいたら味方がたくさん、大偉業を成し遂げることになる。
ね、おもしろそうでしょう。
僕にとっては人生何かあった時に読みたくなる本で、今まで何度も何度も読み返した作品。そういう意味では人生のバイブルのような本でかなりの影響を受けた。
いい作品なので、まだの人はぜひ挑戦してほしい。
(鳥取大学地域学部 准教授 谷中久和)